調査報道とフェイクニュース その3

 調査報道の醍醐味 朝日新聞の報道から

 教科書的に言えば、調査報道は権力監視に欠かせない部門であり、民主主義を支える報道の主たる役割の一つだ。その取材の実態は極めて高コストであり、また厳しい取材環境に耐えられる記者の存在が欠かせない。
 一方取材する側から見ると、これほど手ごたえのある仕事もまたない。調査報道の内側が、報道と同時に表に出ることはあまりないが、紙面だけでも十分その緊張感は読み取れる。

 例えば今回の森友学園関連で財務省の決裁文書介在問題のスクープ記事を見てみる。
 第一報の3月2日付朝日新聞朝刊の一面は、トップに凸版見出しで「森友文書書き換えの疑い」と打ち、縦見出しで「財務省、問題発覚後か」と掲げた。

 朝日は改竄された財務省決算文書を入手し、それと前年に開示、公開された同じ決裁文書を綿密に比較し、改竄を確認しただろう。さらに関係者に裏付けし、改竄を確信したはずだ。そのうえでまとめられたはずの記事だが、横凸版の見出しでは「疑い」とし、縦見出しでは、書き直しは「発覚後か」と断定を避けた。関係記事はナシ。一面の本文のみで切り込んだ感じだ。

 当初「疑い」としたこの記事は、「朝日新聞VS安倍首相、朝日の社長の首が飛ぶか」などとネットでも騒がれた。慰安婦問題以降、朝日新聞への攻撃が目立っていただけに、確かに万が一、改竄が誤報になれば朝日の信用失墜は取り返しがつかなくなる。
 朝日新聞社は、グループとして4000億円を超す売り上げで経常利益が約150億円、純資産3300億円余り(いずれも2016年度)と、まだまだ業界内では安定した経営基盤を持つ。豊富な不動産収入になどに支えられるこの新聞社が、経営的にすぐ破たんすることはない。しかし新聞社の「信頼」はその存在の根幹であり、誤報であれば社長は引責辞任を求められ、600万部ともいわれる部数も大きく減るだろう。

 第一報の記事は情報の出所を示さず、開示済みの文書との細かな比較を抑えている。むろん入手したとみられる未開示決済文書のカット写真もない。
 改竄は、安倍昭恵総理夫人や政治家など関与した人物名を削除し、交渉経過の一部なども省いており、書き換えは310か所になると後の報道で明らかにされた。

 この未開示文書のポイントとなる事実を、敢えて2日のスクープ時の紙面で掲載を控えた背景もいろいろ考えさせられる。「文書の起案日、決済完了日、番号が同じでともに決済印が押してある」とは第一報で表記しているが、これだけで改竄文書と断定できるわけでなく、渡辺雅隆社長の首がかかった記事を公表できるはずもない。入手先とは別の関係者への裏打ち取材や、他の関係機関関係者からの確認もしているはずだ。

 その上で、極めて抑制の効いた内容を第一報にした。この抑制には、ネタ元、改竄文書提供先への配慮もあったかもしれない。
 しかしもし財務省が全否定するならば、具体的な改竄部分を連日小出しにして紙面をつなぐ。そして最後には改竄を認める関係者証言でダメ押しをする。そんな展開戦略もあっただろう。

 矢面に立つ財務省は、朝日新聞の取材先を必死に探り、どこまで掴んでいるか確認を急いだはずだ。その結果が1週間後の元財務省理財局長の佐川国税庁長官の突然の辞任であり、12日の財務省理財局の書き換え謝罪となる。この財務省の慌てた対応ぶり、急速な展開は、そこまで追い込んだ今回の朝日新聞の調査報道の信頼性や手堅さを証明しているといっていい。

 滑稽な現象だが、3月11日朝刊で朝日を除く読売、毎日、産経、日経の各紙はいずれも一面で「森友文書書き換え認める」とトップニュース扱い(日経のみ4段見出し扱い)で報じた。ところが朝日はこのニュースがなく、翌日国会報告当日の12日朝刊で伝えた。
 これを「朝日の特オチだ」とはしゃいだ競合紙幹部がいた。しかし実情は朝日への追いかけ取材に来た各紙記者に、財務省か政府関係者が意図的に朝日抜きでリークしたのではないか。不祥事などをスクープされて追い込まれた関係者が、その特ダネを抜いた社の記者だけ外し、処分などの重要情報を抜かれた他社にリークし担当記者の顔を立てる、というのは、業界ではしばしばあったいじましい慣行だ。

 朝日新聞は4月10日朝刊で、加計学園問題で愛媛県文書に獣医学部新設が首相案件だと首相秘書官が述べたという記録がある、との新たなスクープを掲載した。安倍首相、官邸が前面に出てきたこれも大きなインパクトのある特ダネだ。当の元秘書官の全面否定になっているが、今回こそ他紙も積極的に参加し、事実確認と全容解明に調査報道を進めてほしい。

 そして今回の森友・加計学園をきっかけに、インパクトのある調査報道の広まりに期待したい。難しい取材対象に果敢に踏み込み、丁寧かつ厳密な事実確認をしたうえでの報道の持つ力、重要性を多くの人が気づけば、フェイクニュースなど隅に追いやられていくはずだ

 

ディープ・スロート 内部通報者の大切さ

  調査報道にはカネがかかる。そしてその展開には適性のある記者が欠かせない。そしてもう一つ欠かせないのが、不正などに気付き、それを告発しようとする内部通報者=ディープ・スロートの存在だ。

 先ほど紹介したが、FBI副長官のマーク・フェルトの情報提供、示唆がなければ、世紀の大スクープ、ウォーターゲート事件解明はなかったはずだ。そしてペンタゴン・ペーパーズのダニエル・エルズバーグ。最近ではNSA(米国国家安全保障局)などによる個人情報収集の手口を告発したことで知られるエドワード・スノーデンがいる。いずれも政府や関係機関の権力の暴走を食い止めるために、自分の職、人生をも賭してジャーナリズムへの機密提供を決断した。

 告発したいと考えても、それを受け止め公表し、改革まで結び付けてくれる窓口がなくては、告発、通報の実行は難しい。その窓口としての信頼性、実力が報道機関に求められる。

 ネタの性格に違いはあるが、スキャンダル情報が週刊文春、新潮に集中するのも、同週刊誌にはそれなりの取材力があり、記事として公表し、一定の影響力を発揮するという実力を持っていると世間が認めているからだ。いわばこの「週刊誌的信頼性」は財務省事務次官のセクハラ問題でも活用されたのだ。
 社会的不正行為、事案に対して それを調査報道し、改革の動きにまで展開しうるという信頼性。それを報道機関は求められている

 またそのような調査報道が実現していけば、また告発する人を支援し、また不正を見過ごさないという社会の風土を育てていくはずだ。 

 この項続く