新聞のブラックボックス その1

 新聞事業凋落の現況

 経営情報の公開をしない新聞社

 新聞の凋落はよく喧伝されるが、その実態を把握できる資料は予想外に少ない。別項でも書いたが新聞業界の経営などの実態情報は非公開が多いのだ。

 全国紙でも収支状況を公表しているのは日本経済新聞社で、朝日新聞社は連結ベースを、読売新聞はほとんど非公開だ。毎日、産経新聞も新聞社単体の情報が外部からはつかめない。
 地方紙も非公開が多く、それゆえに国内の新聞事業の趨勢を時々の数値をおさえて検証することができない。

 新聞事業にはいわゆる日刊新聞紙法(会社法の特別法「日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律」)が適用される。外部からの資本介入を防ぐため、株の譲渡制限をかけたものだが、そのために株主は長年固定化し、経営情報はその中だけで共有され、外部チェックが効かない。
 対外的に経営の情報公開を標榜する新聞社の矛盾であり、弱点だ。この非公開状況が新聞社の内包する危機状況への関心を薄め、抜本的な改革を遅らせる要因の一つになっている。

  読者数の実態さえわからない

 今年2018年初めに元朝日新聞社販売部長の畑尾一知氏が「新聞社崩壊」を出版した。新聞読者数という基本情報を示すのに彼が引用したのが、NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」だった。販売の専門部局にいる畑尾氏でさえ新聞市場の基礎数字、新聞購読者数が分からないのだ。

 自社の新聞の購読者はわかるが、他社の実情はつかめない。
 業界組織である日本新聞協会は加盟各社の発行部数と総世帯数を毎年記録しているが、それは各社が印刷したという発行部数であり、実際の購読部数より多く出ているのだ。
 ここでは詳説しないが、購読者のいない新聞の存在がある。
 新聞各社と新聞協会などが示す発行部数は、各社が印刷する部数だ。それを販売店に届ける「送り部数」がある。その中に新聞社が販売店に注文部数を超える引き取りを求めるいわゆる「押紙」がある。読者が存在しない部数だ。そして配達されないまま回収、廃棄される「残紙」になる。つまり押紙、残紙が発行部数を多くしているのだ。
 かつてはこの残紙が発行部数の数十%もあった。それは各新聞社が隠す暗部だ。この発行部数あるいは送り部数が、本紙広告と、販売店の収入になる折込広告の掲載、配達コスト計算の基数になるからだ。水増し部数による過剰な広告費の収奪としばしば批判されている。
 この残紙をめぐる訴訟が各地で起きている。しかし各社ともこの部数乖離を是正し始めているとはいえ、いまだに購読者数を開示しない。そのために販売の専門だった畑尾氏も読者の推定数をNHKの調査に頼っているのだ。

 それにより畑尾氏は2005年から同15年までの10年間に読者は1300万人、25%減って3700万人になったと推計している。そして以降10年、2025年の予測は、さらに1100万人30%減り2600万人になると指摘している。20年間で読者は半減するという予測だ。

 スマホなどの視聴媒体の急速な普及と、それによるニュース配信の増加で、新聞読者の減少率は年々高まっており、畑尾氏自らこの推定は「見通しとしては甘いかもしれない」と認めている。一部新聞社の経営破たんは2025年以前に来るのではないか。

 不動産での生き残れるか

 新聞の経営危機が取りざたされても、業界内では楽観論も多い。楽観論の一つの支えが、各社の不動産収益だ。

 全体的に縮小傾向にある新聞社のバランスシートで、安定した収益をあげ、今後も新聞経営の基盤を支えるといわれるものが不動産収入だ。
 全国紙も地方紙も、都心あるいは地域の一等地に本支社置く。そこに付随したテナントなど優良不動産を多く持ち、今も不動産投資を続けている社もある。新聞社の関連事業で、今や一番手堅い収益を望めるものがテナント料など不動産だ。

 確かに朝日新聞社や読売新聞社は、東京などの都心に多くのビルを持つ。日本経済新聞社も10年ほど前に31階建ての日経ビルを大手町に建設し、いずれも大きなテナント収入を得ている。あまり注目されないが、産経新聞社もその所属するフジサンケイグループのサンケイビルが総売り上げで1000憶円を超え(ビル事業は140億円余り)、120億円余りの営業利益といる実績をあげている。
 
 しかし東京銀座や大阪の中之島などに大型ビルなどを持ち、業界トップの不動産収入があるといわれる朝日新聞社でさえ、中期計画にある2020年の不動産売上目標が200億円、そのうちの30%の営業利益だ。
 大方の新聞社は不動産だけで現在の規模の経営を維持ずること難しく、不動産事業による新聞社の存続はありえない。
 新聞各社は今後の読者減少と広告の衰退で、今の取材体制が維持は厳しくなるはずだ。そして新聞事業の代わりの支えとなる事業を見いだした社は、まだない。

現場に薄い危機感

 ただこの業界で、経営危機が喫緊の課題として取り上げられているかというと、実情はその緊張感が現場に薄い。

 新聞社の危機、特に毎日新聞と産経新聞はそれこそ数十年前から潰れるとささやかれてきた。むろんこの間、1998年に廃刊した北海タイムズのように消えた新聞社もある。しかし10万部を超える中規模以上の新聞で、潰れた事例は北海タイムズ以外まだない。そのことが、経営指標でみればすでに破綻状況にある新聞社内でさえ、危機感が広まらない要因になっている。自分たちが茹でガエルであることに気づかないのだ。

 これまで新聞社の経営を逼迫させるものとして、部数と広告の急速な減少を挙げてきた。ただその双方において、まだ少し落ち着きがある新聞社もあるのだ。

 ブロック紙や地方紙のなかの中堅の各社は、地域の新聞読者の50%以上ものシェアを持つところも多く、それゆえ広告媒体としての有用性がまだ残っている。また地域情報においては、全国紙が支局など取材拠点を縮小、簡素化しており、逆に地方紙にその報道を担う役割が高まっている。

 経営状況を公開していない新聞社が多いため、ブロック紙、地方紙もその経営状況を俯瞰した資料がなかなか見当たらない。

 その中で先ほどの畑尾氏が、10万部以上の43社について社員一人当たりの売上、自己資本比率、そして独自の指標の「残紙率」のそれぞれを検証し、経営評価をしている。残紙率に少し馴染みがないが、これにより販売店がカネにならない部数をどれだけ抱えているかがわかり、販売店経営ひいては新聞社の経営力を表す指標になるという。
 この3指標でみると、弱体といわれる毎日、産経のレベル以下の地方紙は3社しかない。大半がまずは規模に応じた経営力、店舗力を残しているのだ。

 これらから見ると、新聞業界はまだ少し生き残りを模索する時間が残されているのかもしれない。別稿でも書いてきたが、編集から印刷、配送までの一気通貫のビジネスモデルのしぶとさだ。そして情報という生活に欠かせない「米」を扱っている以上、何らかの生き残り策があるはずだ。

この項 続く