自立した老いとは 96歳の自炊メモ

自立した老いとは 独居を通した校長のメモから

 「自立した老いとは」をしばらく休筆していました。当方が仕事に追われたためです。以前少し紹介してきましたが、恩師加藤盛夫校長の原稿、メモ類はまだ多く残っており、そこには老いの辛さ、孤独と向き合ってどう暮らすのか、ということへの知恵と経験が豊富に語られています。また時間を見つけてはそれらの紹介を続けていきます。

 加藤さんは奥さんを見送られてから20年近く、独り暮らしで自炊をし家事もこなされました。今回紹介するのは、96歳の時に書き留められた原稿です。高齢者の食事、料理に何が大切なのか。歩行が困難になり、ヘルパーさんに頼むための気遣い、などが具体的な日々の経験の中からまとめられています。原文はレポート用紙6枚にまとめられており、この執筆もボケ防止に試みられたと思われます。

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「独居老人 自炊の食生活 覚え書」 加藤盛夫(96歳)

 平成元年1月の初めから独り暮らしの生活を始めて、以後今日(この執筆は2007年、平成19年か)まで、自分の食事は自分で作ることを目標にして生活を続けてきました。妻が在生中は“男は外で働き、家事一切は妻の責任範囲で男は口出しすべき事に非ず”という日本社会の古いルールに則って暮らしていました。

 幼い時から苦しい生活を続けて来たおかげで、食物に好き嫌いが全く無かったことは、男子の独居生活の食事作りにはとても助けになりました。
 自分で食事を作りはじめたころは、まったくの素人なので毎日失敗の連続でしたが、出来損ないの食事のおかしな味付けでも、毎度おいしく食べられたことで、自炊を中断することなく続けられました。もっとも独り暮らしで誰も不平を言う者もなかったことも助けになりました。

 とはいってもおかしな味の食事を食べることに満足していたわけではなく、何とか少しはまともな食事を作りたいと、昔の母の料理を思い出したり、テレビやラジオの料理番組をメモしたり、自分なりの勉強はしたつもりですが、どれもあまり興味がもてませんでした。

高齢化と食事

 八十歳代の中頃から食事の量が少なくなり、肉類や魚のような高脂肪、高蛋白質の食事も好まなくなったので、いわゆる美味美食への興味も減少し、これを幸いとして肉や魚から野菜中心の食材に変わってきました。

 特別健康のためではなくて、自然に自分の体がそのように変化するもののようで、食事も素直に自分の体に従うのが一番良いことと考えるようになりました。

 栄養の専門家や医師などが、食事が偏らないよう注意しています。しかし高齢になったら栄養の本などにあれこれ書かれているカロリーや栄養素などに気を配るより、素直に自分の体が何を要求しているのかに耳を傾けることが大切と考え、それを実行しています。

 高齢化が進むにつれてあまりいろいろなものを食べ過ぎず、むしろ長い間食べ続けている食事の方が消化する自分の体の方も対応が良いように思われます。特に消化器の弱い自分などは不慣れな美食がかえって良くないとも感じています。

 また高齢化が進むと体力も目立った落ち、ことに足が弱くなって台所での立ち仕事が苦しくなることから、ついつい立ち仕事を避けた食事に偏りがちになるので、よく注意しなくてはなりません。

 「栄養より安全」「美味より無事」を考え注意することは、特に独り暮らしの老人にとっては何より大切です。そのために自分は90歳に近くなるとともに自分の作る食事の中から、ガスなどの火の事故を起こしやすい揚げ物、フライものなどの油使用の料理は極度に少なくしました。
 また同じように長時間火について居なくてはならないような茶碗蒸しを始めとする蒸し物料理も作らないこととしました。揚げ物、蒸し物などは食べたくなったら外食すればいいと考えているます。シチューやカレーなど長時間火にかけなければならない堅い野菜、豆類の料理も極力避けることにしました。
 やけどをしないことと、火を出さないことなどは、調理以前の重要事項であることを忘れてはなりません。

調理中の安全について忘れてはならないことは以下の通りです。

1.調理中は絶対禁酒、酒を呑むのは調理が終わってから

2.電話のベルが鳴ったらガスを切ってから

3.調理とテレビやラジオは同時にしない

4.地震、雷など急な事故の時はガスや電源を切ってから台所を出る

原則 3度の食事

 自分で食事を作るようになってから、一日に3度の食事の原則は固く守り、間食や夜食をしなくなりました。
 種々の集まりなどで外食をする場合も、一日3食のルールを壊さないように注意しています。
 一日3食のルールを乱すと、特に高齢者はこのルールに戻るのに苦労します。いろいろ不都合が多くなるので注意が必要になります。

 自分は一日3度の食事について、大体は次のような献立を原則としています。

朝食 ほぼ固定して例外はほとんどない。
パン フランスパンのバケットを主として、トーストパン、レーズンパンその他を使用することもあり。ジャムも
牛乳1本 常に温めて飲む
野菜(サラダ トマト中1個、レタス1から2枚 レタスにはドレッシングをかける。グリーンアスパラ、キュウリ、キャベツなどを加えることもあり)
ゆで卵1個。

昼食 ごく軽く。朝食の時間が遅い時は昼食を抜いて一日2食のときもあり。

昼食は特に手をかけず、残りものやパン、麺類、クラッカー類、餅、インスタントのおかゆなど。

夕食 原則白米のご飯に味噌汁、香の物。

果物を別にしておかずは野菜、肉又は魚類を加えて4,5種以上として一番献立も工夫しました。

歩行が辛くなり
 しかし材料の購入をヘルパーさんに依頼するようになり、最も苦労しています。  歩行困難になり、週2回ヘルパーさんに食材購入を依頼するようになってからの気遣いを記します。

 ヘルパーさんに買い物をお願いする時間は、一回ほぼ1時間以内。その時間内に食料品、日用品、薬類、衣料品、電気用品、文房具などなどあらゆる買い物をお願いするために、事前に綿密な計画を立てておかないと時間内に全部買えないこともあります。
 特に生鮮食料品や魚類は、市場に出回るシーズンがいろいろ変化するものもあり、料理献立は3日分や4日分も立てることが困難です。

 料理経験の浅い老人男子などには、何日分かの食事の献立を予想し、その分量を決め、買ったものが余って痛んだりしないよう考えて購入を依頼するのは困難なことです。
 歩行自由で毎日スーパーに行き、出回っている食材などをあれこれ見て回り、夕食の献立を考えることは、なかなか楽しみもありましたが、今は全く苦労の連続です。

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