新聞の再生のために その4

地域情報と投稿コンテンツ

ネット時代の地域情報

 速報性からの脱却を考えながら、ニュースのわかりやすさと、取材対象を捉える新しい視点の大切さ、可能性を考えてきた。そしてもう一つネット時代に見落とせないのが地域情報の充実だ。

 全国紙とともにブロック紙、地方紙もその部数、売上が衰退傾向にある。ただ減少率は全国紙よりは緩やかであり、2016年迄の売り上げでみると、北日本新聞や神戸新聞など一部の新聞社は前年を超える売上を残している。
 媒体力がピークを越えたとはいえ。ブロック紙や中堅地方紙にはまだしっかりした経営を維持できている社も多い。

 それらローカル紙には地域の配達される新聞の半数以上のシェアを占める地元紙も多い。その高いシェアが織り込み広告を含めた広告媒体としての存在を支えている。
 この地域の新聞社の経営母体をささえるもの、そのコアは読者が期待する身近な地元の情報だといえる。

 地域情報の閲読率についての調査は少ないが、「ふだん読む新聞記事ジャンルトップ10」(「情報メディア白書2018」電通メディアイノベーションラボがビデオリサーチによる全国新聞総合調査をもとに作成)によると、トップはテレビ欄(調査対象者の60.7%が読むと回答)であり、4位、5位に「地域・地元の社会・事件」(同41.5%)「地域・地元の政治」(同35.5%)が挙げられている。この4位と5位を合わせればトップになるわけで、地域情報への関心は極めて高いことがこの資料からも裏付けられる。
 国際記事を読むと答えた人は34.0%であり、例えて言えばイラクの爆弾テロで100人死亡するニュースがあったにしても、自宅近くの交通事故への関心、興味が勝る場合が多いのが実態なのだろう。
 グローバル化が一層進むネット時代においても、地域情報への高い関心は変わらない。この地域情報へ需要にどこまで対応できるかも、新聞の生き残りのカギになる。

 地域情報の減少

 その地域情報はいま徐々に少なくなり始めている。
 まずこれまで地域情報配信の一端を担っていた全国紙地方版の取材体制の縮小だ。産経新聞を除く全国紙は前世紀末まで、各県に支局を設置し、各県ごとの地域版を掲載していた。東京、大阪、兵庫など大きな県ではさらに地域を小分けにし、各地域版できめ細かな事件や暮らしの情報を伝え、対象地区の地方紙と競合していた。

 しかし今世紀に入り、地方でも部数の衰退が進んだ。それにともなう収益の減少のために、全国紙は支局の要員削減を着実に進めている。販売政策上、地域からの撤退を思わせる支局の統廃合は目立たないが、各地方機関の配置要員は2、30%の削減をしている地域が多いのではないか。
 また各地元紙も全国紙ほどではないが、部数の減少は始まっており、ここも記者の削減はあっても、取材網の拡充は期待できない。

 配置記者が少なくなれば、彼らが取材した地域版の掲載情報も少なくなる。手軽に記事をまとめられる地域自治体などの発表情報が多くなり、各社競合による地域の課題の発掘や行政の監督などの役割を果たしにくくなっている。地方の過疎化は、情報面でも進みつつあるのだ。

 地域情報媒体としてはテレビの各ローカル局も主要な一画を占めていた。しかしキー局などの視聴率低下は今後の広告収入の頭打ち、減収に結びつく。それはローカル局の収入の柱となるネットワーク分担金や地方局そのもののネットワーク収入を確実に減らしていくとみられ、すでに逼迫している地方テレビ会社にますます製作費抑制を求めることになる。

 ローカル局でも今生活情報番組に力を入れているともいう。しかし民間放送連盟の調査でも総放送時間に占める自主製作番組比率が10%未満の社が半数以上あり、それが増加傾向にもある。その場合やはり制作費が多くかかる地域のニュース取材が削減対象になるはずだ。

 テレビと新聞による地域情報の減少は、地域の行政や地域活動への住民の関心の低下を招き、ひいてはコミュニティの崩壊につながりかねない。この裏付けとなる調査は国内でまだ見当たらないが、米国では地域紙の廃刊による投票率の低下が報告され、社会参加の衰退も警告されている。(「新聞の公共性とその役割」新聞協会2013年6月 など)

 ネットでの地域情報拡充

 この地域情報の減少にどう対応するのか。その一つの策がネットによる情報の発掘、活用にある。
 
 ネット情報の発信の一番の優位性は、その制作、配達コストが極めて安価なことだ。
 新聞は本社で編集し、それを印刷所に送り、新聞紙を配送している。テレビは放送電波の獲得と配信設備、それに映像の取材、制作設備とともに大きな設備投資が必要となっていた。
 地域ニュースサイトであれば、その所要コストは個人でも参入可能なレベルにまで下がる。
 
 今Yahoo!ニュースや47NEWS(共同通信と新聞52社)などネットニュースサイトには、地域版を編成しているものもある。しかしそれらは新聞各紙の地域ニュースを集めたものであり、今見てきたように、地方取材ネットワークの衰退の影響を受けざるを得ない。
 課題は、要員削減の流れの中で、どう地元に必要な地域情報を取材し記事にするかだ。

 その打開策の一つが投稿記事の拡大だと考えている。
かつて新聞の地方支局で働き、そしてデスク、支局長を務めて経験からの意見だが、記者の減少にとともに、記者が支局管内を回り、発掘する取材力が大幅に低下しているはずだ。
 多くが行政機関や警察、消防などの発表をもとにしており、それゆえにテレビも含めて各社のニュースに違いが生まれない。独自取材がない。
 もう今から20年近い前、支局員が火事と交通事故の記事書式、パターン自分のワードプロセッサに作成し、そこに発表された項目を入れ込んで仕事をしていることに驚いた。記事の定型化はものの見方の定型化であり、取材対象の問題点や課題に気づくきっかけを奪ってしまう。忙しいので定型処理するしかないという言い訳もあるだろうが、この記事の定型化の流れはさらに広まり、昨今のニュースをつまらなくしている要因であることには間違いない。

 このパターン取材を減らし、制作コンテンツを抑制するために、地域の読者、視聴者からの情報投稿を増やしたい。
 
 読者投稿は以前から存在した。しかしそれははがきなどに書かれた程度の意見であり、それを積極的に拡大し、取材システムに組み込む取り組みはほとんどなかった。
 
スマホが変えた取材環境

 しかしスマートホンの普及が、いまその環境を大きく変えつつある。
すでにNHKなどテレビ各局は、事件などで投稿映像を利用し始めている。かつて大きな事件取材の際、現場に駆け付けた記者の大切な仕事が、周辺住民からの聞き込みと同時に、発生時の写真を撮っていないか、探すことだった。
 おそらく今も、現場記者の作業の一つに撮影映像を探すことにあるのだろう。また投稿動画も増えているという。
 しかしその投稿に本格的に取り組んでいるケースがまだ見えてこない。投稿映像の撮影者名はほとんど掲示されず、投稿作品への返礼は各社ばらばらであり、優秀作の顕彰も聞いたことがない。

 初の投稿動画サイト

 著者は新聞社のデジタルメディアセクションに在任していた11年前に、おそらく国内で初めての投稿動画公募を経験した。当時はまだスマホの普及以前で、カメラ、携帯電話からの映像送稿は手間がかかった。投稿者は開始時、全国から100人を超えたが、その後は常連の投稿になった。またやはり取材対象が地域の催事や家族関連の映像が増え、事件発生時の情景など期待した映像が集まらなかった。
 
 しかし10年余り後の現在はインフラ環境は圧倒的に変化した。スマホの個人所有者は16年調査で56.8%、携帯電話を合わせると保有率は83.6%(ともに総務省情報通信白書)になる。その大半にカメラ機能が付いており、撮影映像の送信はスマホの入力ボタンのクリックのみで可能だ。
今や事件を含めあらゆる現場に、取材可能なカメラがあるのだ。

 もう一つの環境変化は、ネットにおける投稿サイトの著しい成長と普及だ。
05年にYou Tubeが出現して以降、ニコニコ動画。フェイスブック、Twitterと投稿動画が利用される媒体が登場した。そして最近はBazzVideoやTicTokなどが10代から広まって世代を超えた利用者を急速に集めている。

 その存在はテレビの視聴時間を奪いつつあるが、注目すべきはそのコンテンツの可能性だ。ベースはエンタメ系ではあるが、交通事故からマナー違反などの問題行動、小さな助け合い、動物愛慕、環境保護と、誰もが目にする出来事でありながら、普遍性を持つ街角のニュースが次々に掲載されているのだ。
これらの投稿媒体の普及は、ユーザーの投稿に対する親しみを増し、その制作コンテンツに大きな多様性をもたらしている。「投稿文化」が生まれているといってもいい。

 これらの投稿動画に解説は不要かもしれない。しかし数十秒から数分の映像はそこに解説と評価、つまり編集を加えれば、これまでのマスコミが拾えなかった生活ニュース、地域情報が生まれるに違いない。

 今、この投稿動画を主体にした新しい地域情報発信モデルを考えている。
 この具体案は、また別項で紹介したい。

 この項続く 

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